具象・抽象・ミックス

約1週間ぶりの更新となります。今回は現代絵画においてよく問われている、具象と抽象の問題についてちょっと考えてみたいと思います。まず、具象と抽象とはそれぞれ何なのか、どういう概念なのか、という話になりますが、具象(「具体」とほぼ同じ意味ですが、ここでは具象)というのは物事が「くっきり」としたイメージであり、抽象というのは何か「ぼんやり」としたイメージである、というのがまあ一般的な見方であると思います。よく、「あの人の話は抽象的でよくわからない~」とか「もう少し具体的に…」と言われるように日常生活レベルの話で言えば、抽象=マイナスイメージ、具象(具体)=プラスイメージ、の面が強いと思います。

 さて、国語辞典で各々の言葉の意味を調べてみると、具象は「形・姿を備えていること」であり、抽象は「種々の具体的なものの中から、共通している性質だけを抜き出して、一つの概念を作り上げること」(注1)としています。…こう見ると「あれ?抽象っていう言葉はあんまりいいイメージ無かったけど、寧ろいいんじゃないか」と思えてきます。実際、一概に具象と抽象どっちが良いか悪いかとは言えません。要は捉えるスケールの違いなのです。抽象は、ざっくり言えば一つ一つの「具象」を「全体」として俯瞰で捉えるということ。具象は「全体」の中の一つの物事をクローズアップすること。抽象は、物事を動かす前に、「全体」としての方向性、指針を定めることが出来、具象はその指針を実際に推し進めて行く為の一つ一つの手段であると言えるでしょう。

 絵画においては、その画面に描かれている対象が人の目に見えるもの、すなわち写実的であれば具象画、そうでなければ抽象画、と簡単に線引きされることが多いのですが、それは便宜的な区分けであって、実際には具象と抽象はお互いの間を往来しあっているのではないでしょうか。半具象・半抽象と言われるように、具体的なイメージを描いているつもりでも抽象的なイメージが画面の中に混在することはあります。そもそも、絵自体が「見えないものを見えるようにする」ものであると言われますが、それなら厳密には「完全な具象」は存在しないことになるんじゃないか?ということになってしまいます。これには主観と客観の問題、さらには写真論の問題まで絡んでくるので今回はここまでにしておきますが、まとめとして、具象と抽象が互いにオーバーラップしているからこそ、絵画というものの面白味をより増長させているのではないかと私は考えています。

 さて、ここまで具象と抽象の問題を考えてきましたが、この問題をどちらかといえば「抽象的」な視点で述べているのが、「具体と抽象-世界が変わって見える知性のしくみ(著:細谷 功)」という本で、これは芸術的な視点ではなくビジネス書としての側面が強いのですが、偶には違う角度から物事を見ることも大事かと思いますので、紹介しておきます。

(注1):旺文社国語辞典第十版(松村明・山口明穂・和田利政 編)から引用